どれが一番はやいかな

どれが一番はやいかな

 マリナちゃんには、ひとには言えない秘密があります。
 じつは、機械とおはなしできるのです。
 今日も扇風機とエアコンがおはなししているのが聞こえてきました。

 マリナちゃんちでは、一年中扇風機が出しっぱなしです。いつもエアコンの下に置いてあります。

 マリナちゃんのパパもママも、エアコンと扇風機はおともだちだと思っています。マリナちゃんは「へんなの」って思います。だってエアコンは扇風機のことをいじめるんです。

「ほこり立てるしかできない役立たず」

 って言って、ばかにします。フィルターを変えてないエアコンのほうがほこりを立てるのに、おかしいよねってマリナちゃんは思うけど、エアコンはマリナちゃんのことも「子供のくせに、なまいきだ!」と言ってばかにしてきます。自分のほうが年が上なので偉そうなんです。それなのに、もっと年上の扇風機のこともばかにするんです。

 エアコンってとってもいやなやつです。でも使わないと夏は暑くてしょうがないし、たしかに扇風機だけだとダメだなあとマリナちゃんも思います。くやしいけれど、こればっかりはしかたがないなと思います。

 

 耳を澄まして聞いてみると、どうやらエアコンと扇風機はどっちのほうがはやく回れるか競いあっているようです。
 マリナちゃんは、扇風機に勝ってほしいなと思いました。それにエアコンって回らないでしょう。扇風機のほうが絶対にはやいと思います。
 扇風機も、これなら勝てると思ったみたいです。

「ぼくは強のとき、一分間に1200回できるよ! しかもマリナちゃんのママがカスタムしてくれたから、本当は一分間に1260回転もできるんだ!」
「すごいね!」

 と、マリナちゃんは言いました。ほんとうにすごいです。マリナちゃんは一分間に1260回も回れません。なわとびの二重跳びだってできないんです。エアコンにもむりだと思います。
 でも、エアコンは

「くっくっく」

 と、余裕たっぷりにわらいます。

「エアコンの負けよ! かべにくっついてちゃ一回も回れないよ」

 と、マリナは言いかえしました。エアコンは、ますますおもしろそうにわらいます。ほんとうにいやなやつです。

「マリナちゃん。ひとを見かけだけで判断してはいけないよ。ぼくには内なるファンがあって、一分間に1800回転もできるんだ。室外機だって一分間に1000回は回れるぜ。ふたつ合わせて2800回転だ。だから、残念だけど、この勝負、ぼくの勝ちだね」

 扇風機はショックでなにも言い返せません。回ることが扇風機のお仕事なのに、そこでも負けていたなんて。
 それに回転数は足したって意味がないです。でも、このエアコンはいやなやつなので、そんなのおかまいなしです。
 かわいそうな扇風機は、ビーンと泣き出してしまいました。

 

 おかしな音をききつけて、おかあさんがやってきました。

「こら、マリナ! 扇風機をこわしたらだめでしょう!」
「ちがうの、ママ! 扇風機がエアコンにいじめられてたの!」

 ママはエアコンと扇風機をよく調べました。もちろん、どっちも壊れてはいませんでした。扇風機を段ボール箱に入れて、押し入れにしまいました。扇風機はまだめそめそと泣いています。
 マリナちゃんは、ママのエプロンにしがみついて言いました。

「扇風機を捨てないで!」
「捨てないわよ」

 と、ママはやさしい声でいいました。

「よかった! 扇風機の回転数がすくないから捨てちゃうんだって思った」
「回転数?」

 と、ママは目をむいて聞き返します。でも怒っているわけではないみたいです。ママはマリナの頭をなでました。

「マリナはママの子ね。ママもマリナくらいの頃は回転数に興味があったのよ」
「エアコンがね、扇風機の回転数がすくないって言っていじめるの。ねえママ。エアコンよりもはやく回るものないかな?」

 マリナちゃんは、エアコンよりももっとはやいやつをみつけてきて、ギャフンと言わせてやりたいと思いました。
 ママは、ちょっと考えて、

「あるわよ」

 と言いました。
 連れてこられたのは台所です。ママは、コンロの上にある換気扇を指さしました。

「最初は2400RPMだった。でもママはがんばって2560RPMまで上げたの、すごいでしょう」
「ママ、あーるぴーえむってなあに?」
「Rotation Per Minute. 一分間あたりの回転数よ」
「へぇ……すごいすごい!」

 マリナちゃんはぴょんぴょん飛び上がりました。換気扇とはおしゃべりしたことはありませんが、扇風機と同じようなはねをもっています。だから扇風機のおともだちに違いないとマリナちゃんは思いました。
 さっそく扇風機に教えてあげようと思って、マリナちゃんははしりだしました。だけどおおきなものにぶつかりました。パパです。

「やあ、マリナ。パパはもっとはやく回るものを知っているぞ」

 するとママがむすっとした顔で腕組みをしました。自分が手塩にかけて整備した換気扇がばかにされたと思ったようです。

「あなた、洗濯機のことを言っているのなら、はじめから勝負にはならないわ。脱水時でもせいぜい900RPMよ」
「もっとスマートなガジェットさ」
「言っとくけど、押し入れのなかのCDプレーヤーは、もっと遅いわよ」
「ふふふ、まあ、見てなさい。パパの本気に、二人とも恐れおののくがいい」

 と、パパは不敵に笑いました。

 

 パパが持ってきたのは電気シェーバーでした。スイッチを入れると、ビーンと音をたててシェーバーが動き出します。

「体感6000RPM」
「……フィーリングでものを言わないでちょうだい」

 と、ママはブリザードのように冷たい声で言います。
 でも、換気扇よりも電気シェーバーのほうが速そうです。
 ママは、怒って自分の部屋に行ってしまいました。
 マリナちゃんはパパにお願いして、エアコンの前で電気シェーバーを動かしてもらいました。まるで勝負にならないと思ったのか、エアコンはうんともすんとも言いません。ほんとうに性格のわるいやつです。パパはこまった顔をしています。マリナちゃんは押し入れの扇風機に、

「かたきはとった。やすらかにおやすみ」

 と、いつもママと一緒に見ているドラマの主人公になったつもりで言いました。
 扇風機は泣き疲れてしまったのか、答えてくれませんでした。
 そうこうしていると、ママの部屋から叫び声があがりました。
 まあ大変。
 マリナちゃんとパパはあわてて部屋にかけつけました。
 ママがガッツポーズしています。

「勝ったわ! 勝った! この勝負、わたしの勝ちよ!」
「なんの勝負だよ」

 パパは困った顔をしています。

「回転数勝負よ!」

 と、ママは叫びました。どうやらママの中では、泥沼のデスマッチが始まっていたようです。
 ママが勝ちほこったように言いました。

「わたしのパソコンのハードディスクは9300RPMよ」

 パパがガクッとその場にひざをつきました。

「――ば、ばかな。いきなり9000オーバーか!」
「あはは。どうやらこの勝負、わたしの勝ちのようね」
「くそっ、僕のはもうSSDに変えてしまった」

 パパはくやしそうに床を殴っています。
 それにしても、すごいです。一気に五ケタの大台に迫りました。
 これなら、エアコンに大きな顔をさせずに済みそうです。

「やったあ! 9300なんてすごいね!」
「ごめんね、マリナ。もっとはやく思い出せればよかったんだけど」

 マリナちゃんは首をふりました。遅くなんてないです。うれしくてマリナちゃんはぴょんぴょん飛びはねました。
 そんなマリナちゃんの様子を見て、パパはしょんぼりとしていました。

「マリナはパパの味方じゃなかったのか!?」
「だってママのほうがはやいもん!」
「くっ、くっそぉおおおう!」

 パパは、涙と鼻水をまき散らしながら部屋を出ていきました。

「ほんとにもう、あのひとは大人げないんだから」

 と、ママはぷりぷり怒りながら濡れタオルで床を拭きます。カーペットの上に鼻水を落とされて、ママはおかんむりです。

「ああやって、すぐに勝負に熱くなるんだから」

 ママはパパの文句を言いますが、ママだってさっきは熱くなっていました。同じだよね、とマリナちゃんは思いましたが、ママはそういうことを言われるのが嫌いなので、マリナちゃんはあえて言いませんでした。そのときです。
 外でパパの叫び声がしました。
 なにか事件があったのでしょうか。
 二人はいそいで外にでました。
 パパがガッツポーズをしていました。

「僕のバイクのエンジンのレブリミットは12000回転だ」

 ママの顔がみるみる赤くなりました。雑巾を地面にたたきつけます。

「くっ、くやしい!」

 と、叫んで玄関に飛び込み、バタン扉を閉めてしまいました。
 マリナちゃんとパパは顔を見合わせました。
 こんなことで家から締め出されてもは困ります。
 ぬき足さし足で玄関に近寄りました。そーっと扉を押してみると、どうやら鍵はかかっていなかったようです。ふたりは無事に家のなかに入ることができました。しかし、奥からキュオーンというジェット・エンジンのような音が聞こえてきます。

「なんだなんだ?」

 と、めんどくさそうにパパは言って、部屋のなかに入っていきました。
 それから、パパの絶叫が聞こえてきました。
 キュオーンという音は続いています。

「パパ? パパ! 大丈夫!?」

 急いで部屋に飛び込んだマリナが見たのは、鬼のような顔で掃除機を構え、パパの髪の毛を吸い込もうとしているママの姿でした。
 パパは頭を抱えて泣いています。
 ママはマリナちゃんのことに気づくと、掃除機をとめました。

「サイクロン型掃除機10万RPMよ」

 マリナちゃんはぱっと笑顔をはじけさせした。

「すごいすごい! 10万あーる・ぴー・えむ!」
「もしかして、と思ったの。気がついてよかったわ」

 ママは世界中の誰よりも誇らしげに言いました。
 結局パパは10万RPM以上のガジェットを家の中で見つけることができなくて、

「もういいだろ? 降参だ!」

 と、やけくそ気味に言いました。

 

 晩ごはんのあと、マリナちゃんは押し入れにしまわれた段ボール箱を開けて扇風機に言いました。

「大きくなったら、マリナが10万回転に『ちゅーんあっぷ』してあげるからね! たのしみにしててね!」

 扇風機はなにも言いませんでしたが、心なしか、わらっているように見えました。

 おしまい

ぼくと契約してぺったんこになってよ!

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