三年後、世界は終わる

彼女の願いはただ一つ、憎き人間に理不尽な結末をもたらすこと。かつて人間が、彼女に与えたのと同じように。第一章

1-01

 子供の頃、気に入っていた童話があった。  誰かが読み聞かせてくれたんだろう。俺はその話に夢中になり、なんどもなんども読んでくれとせがんだ。そのうち「読んで聞か […]

1-02

 部屋の中がぱっと明るくなった。朝が来たらしい。  俺は相変わらず検査衣を着ている。起きてるときも寝ているときも、ずっとこれだ。昨日はピンクっぽいのを着せられて […]

1-03

 セレブニートに転職した。俺がじゃない、ババアがだ。  俺はモルモット兼カバン持ちに昇格した。半分人間になった。よかったです。  ババアはなんらかの手段を用いて […]

1-04

 婆さんは俺たちのところまでやってくると、疑わしげににらんできた。問答無用でけんか腰な視線にほんのすこしだけイラっとするものの、アンジェリカはさっと立ち上がり好 […]

1-05

 が、黒い影がボートに接触する前に最初の衝撃がきた。俺たちの背面、影がやってきたのとは真逆の方向だ。ただし、衝撃自体は小さくて、ボートはなにごともなかったように […]

1-06

 『いわっころがし』は、長年連れ添ったつがいの『こいしあらい』に逃げられた。今からだいたい五百年前、卵を産む当番を交代したばかりの頃だ。  たった一つではあった […]

1-07

 気がつくと、薄暗い森の中にいた。川の音は聞こえない。「キャアアアッ、キャアアアッ」と、鋭くも間延びした鳥の鳴き声が降ってくる。生温い空気に喝を入れているかのよ […]

1-08

 俺の衝撃にはお構いなしに、日は暮れようとしていた。 「俺はエイナル。ええと、海の向こうから来た。飛んできたんだ。びゅーんってな」  気を取り直した――というか […]

1-09

 服を取り戻すチャンスは案外はやく巡ってきた。  一瞬うつらうつらして、はっと身じろぎしたときには、辺りはうっすら明るくなっていた。しっとりとした朝の空気が香っ […]

1-10

 「弱火でさっと火を通」した時点までさかのぼる。  『いわっころがし』は混乱していた。混乱のあまり人間っぽくふるまうことを忘れてしまって、しょっぱい真顔のままう […]

1-11

 感傷に浸っていると、人間がぱちっと目を開けた。うなりながら億劫おっくうそうに身体を起こした。うまく寝つけなくてとっても機嫌が悪そうだ。「寝ぐずり」っていうやつ […]

1-12

 すこしの間、『いわっころがし』は人間の寝顔を眺めていた。なんとか成獣の威厳を保つことができてほっとしたのもあるし、瞳のほかにも『こいしあらい』の面影があるかも […]

1-13

 とってもひどい気分で目が覚めた。  『いわっころがし』は木の洞からはい出ると、すきっ腹を抱えてとぼとぼと歩き出した。空腹のせいでいつもよりも感覚が鋭くなってい […]

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 ジョバンニ島は今日も抜けるように晴れている。ホフリー婆さん曰いわく、この時期にこんなに晴れるのは世も末、人類は滅亡不可避、ということだ。ゲストハウスの二階のテ […]

1-15

 四苦八苦して「魚の島」の場所を教えてもらったのはよいが、船も飛行機も自前で持っていないアンジェリカは手も足も出ない。ゲストハウスのオーナーにお願いして船を出し […]

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 森の大統領(?)で炎の使い手な村人とは、海に出てからも行動をともにしている。村人は森を出るときにすこし嫌がったけれど、「いっしょに来てくれたら、きれいなお姉さ […]

1-17

 クソババアへの怒りを力に変えて、俺は暴れる村人を背負い投げにした。その勢いを殺さずに、後ろ手にノブをひっかけて扉を閉める。 「ぎゃぁあああ、殺される! 助けて […]

1-18

「それでね、せまいへやに連れ込んで、『いわっころがし』の頭をごちんってやったの。脱がされたくなかったら、わたくしが脱がせて差し上げますとおっしゃってね、ほんとう […]

1-19

 仮に隣の島が近かったとして、泳いで帰るのは非現実的だ。生身の人間が一〇〇〇海里を泳ぎ切るのは無理だと思う。魚じゃないから船や飛行機を利用しないといけない。その […]

1-20

 腕や頭を引っこ抜かれて本当に人生をターミネートされる前に、おっさんに救出された。もちろんおっさんは俺を助けるために現れたわけじゃなくて、用意する夕飯は二人分で […]

1-21

 翌朝未明、急に部屋が明るくなったなと思ったら、おっさんに叩き起こされた。おっさんは、この世のすべての絶望を背負ったような虚ろな目をしている。  俺が目を覚まし […]

1-22

 結論から先に言えば、島に水はなかった。だからカレンさんの教えどおりに海鳥を捕まえて生き血をすすろう。  っていう考え方も悪くはないけど、わけのわからない感染症 […]

1-23

 柱の中に行こう。それにはボートを使おう。だってわたしは今、おそらが飛べないから。なんでかっていうと、また狭いところに閉じ込められてるの。切り裂いておそとに出て […]

1-24

◆  空気が一変した。  アンジェリカは後ずさりしつつ、背中にユイリを庇った。  痺しびれにも似た刺激が微かに肌を震わせ、それが駆け抜けるのを追って、肚はらの底 […]

1-25

 目が覚めたとき、俺はひやっとした地面に無造作に転がされていた。アンジェリカがぼそぼそとしゃべっているのが聞こえてくる。お取り込み中のようだ。けれど、起き上がる […]

1-26

 たぶん夜になった。明るさが減って空気もひんやりしてきた。  俺は一人で海辺にいた。森の奥のほうで『魚』がむせぶように鳴いている。けれどこの近くには生き物の気配 […]

1-27

 夜更けの砂浜で、俺たちは静かに見つめ合った。控えめな波の音が、夜の底に沈殿する空気を気まぐれにかきまわした。ユイリがこっちの次の動きを待っている。まるで目当て […]

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 ガトリングの銃口が、火を噴く!  のかと思ったら火じゃない。 「うわっ」  まき散らされる飛沫ひまつ、生臭さの霧が立ち込める。とっさに腕で頭を庇うものの、痛み […]

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 反動で目の前が真っ暗になる。じめっとした空気感も、魚の鳴き声も相変わらずだったが、ユイリがカッとなってジャンプしたのはわかった。でもって着地点がてきとうか、間 […]

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 次の瞬間、ひときわ大きな悪寒が走って、われに返った。  気がついたら後ろ向きにかるく五メートルくらいは跳躍していた。俺のいたところに触手が落ちてきて、地面を震 […]

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 ドゥン――  肚はらの底に響く低音とともに、巨木全体が揺れる。衝撃波に煽あおられて木の葉が舞い散った。だがこの異空間には、怯おびえて飛び立つ鳥も逃げ惑う小動物 […]

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 アンジェリカは空を見上げて唖然あぜんとした。  暗い樹冠をなぎ倒し、ちらっと見えた鈍色の空に、突如炎竜が出現した。木の上に逃げてしまった少年のことも、勝手に卵 […]

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「……『いわっころがし』ちゃん」  剣が歯をむいてうなった。再び平穏を取り戻した触手は、しゅるしゅると上の方に巻き取られていく。俺はぼんやりと村人の行動を反芻は […]

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九発の残弾を早々に使い切ったアンジェリカは、熱い拳銃で手近な魚を殴りつけ、その勢いで得物をふっとばして素手になってからは、ランタン型の懐中電灯をグローブ代わりに […]

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 死ぬかと思った。  どうせ俺の人生なんて高が知れてるし、はやく死んだほうが世のため人のため、といつも思っているけれど、実際に死にかけるとやっぱり死にたくない。 […]